平成16年(行ウ)第14号
 
         意 見 陳 述 書
 
                       2005年1月27日
 
宇都宮地方裁判所 第1民事部 御中
 
                  栃木県小山市城東2−10−22
                               伊 藤 武 晴
 
1 ダム建設の問題点と首都圏の水需要の実状について
  ダムは、社会の発展と人々の暮らしの向上にとって不可欠の物であるとして利点の みが強調され、ある種の神話を生み出してきました。しかし、計画が立てられてから40 年、50年という年月がたち沢山のダムが造られてき反面で、社会情勢は大きく変わり、 人々の意識も変化しました。そして水余りとなった今日ではダムはお荷物と言われる ようになり負の側面がクローズアップされてきています。
  別添図表ー1は利根川流域1都6県の都市用水(工業用水+水道用水)について、1969 年〜2002年間における、国の予測と、実績について示したグラフです、この間、国は 3回計画を下方修正しましたが実績は常に国の予想を下回り、2002年時点で100万ト ン/日以上の乖離が生じています。そして、この乖離はさらに大きくなる状況にあり、 このグラフは国の需要予測がいかに過剰であったかを示しています。
  別添図表ー2は6都県の実績を詳細に示したものです。工業用水は1972年をピ−ク に減少に転じ、水道用水も1992年頃をピークに減少に転じ現在もその傾向が続いてい ます。新たな水源開発は水単価の上昇となって現れ、その負担を軽減すべく工業部門 では節水や再利用リサイクルに勤めたこと、水道用水では水洗トイレがほぼ普及する 一方で、水道事業者が漏水防止対策に努めたことや市民が節水意識が持ち始めたこと により節水型の機器が普及したことがその背景にあります。今後、この傾向が変わる 要素はありません。
  加えて、日本の人口は、2007年頃をピークに減少に転じますので水余り社会の到来 は確実です。私たちはダムたいする認識も変えなければなりません。
  ダムについての従来の考えは
  @水を制御し、水害から人々の財産や生命を守るするすばらしい構築物
  A飲み水や工場の水を供給し渇水の心配がなくなる
  B発電の水を供給する
  以上の利点のみが喧伝され 負の側面には目をそむけるものでした。
  しかし一方で、以下のようにダムは数々の災いをもたらしています。
  @生活破壊         別添図表ー3
  A自然破壊         別添図表ー4
  B災害誘発の可能性     別添図表ー5
  Cダム湖の堆砂       別添図表ー6
  D水質の悪化        別添図表ー6 別添図表ー7  別添図表ー7-2
  E巨額の費用負担
  中でも巨額の費用負担は重大な問題です。3ダムに対する栃木県(宇都宮市・小山 市を含む)の負担額は 事業費ベースで413億円、水源地域対策特別措置法の事業と 水源地域対策基金の事業も合わせると約500億円に、さらに、起債の利息も加える と、総計で約750億円になります。
  こうした負の側面に目を向ければ、ダム事業の推進に当たって当局は時代の変化に 十分目配りをし、必要性を科学的に把握し費用対効果を正確に検証し、住民への説明 責任を果たさなければならないはずです。
 思川開発事業の問題点
(1)南摩ダムは水収支が成り立たないムダなダム
  ダムが予定されている南摩川は子供でも飛び越せる小さな川で水があまり溜められ  ません。そのために必要な水の大部分を黒川や大芦川等その川に頼る仕組みになっ ているのですが、十分な水が得られず渇水時に役に立たないムダなダムと言われてい ます。 別添図表ー 8・9   別添図表ー 10・11   別添図表ー 12
  また、後で木村幹夫さんが陳述しますように、取水する川の流域に暮らす人々に大 きな負担を強いるほか、地中に導水管を建 設することで沿線の地下水を涸らすなど 様々な環境破壊を引き起こします。別添図表ー 13
(2)ダム建設による自然破壊
   ダム建設とダム湖によって絶滅危惧種の植物や水中生物を消滅させ、オオタカや  クマタカの生息地を奪います。別添図表ー13・14
(3)災害の危険
   南摩ダムは、ダム予定地の地盤が悪くコンクリートダムの建設に不向きなために、  ロックフィル方式の土盛りのダムです。ダム湖一帯の地質も同様で、湛水に伴う漏  水や地滑りの危険性があります。
(4)巨額な費用負担
   思川開発事業の費用は約1850億円で、そのうち栃木県負担部分は治水分13  0億円、水道分86億円の合計216億円にも上っていますが、費用対効果につい  て、当局は住民の公開質問書に全く答えず説明責任を果たしていません。
(5)事業の不必要性
  栃木県の思川開発事業参画理由は、県南の各市町から水道用水源確保の要望がある  とされていますが、極めて疑問に満ちた水需要調査に基づいており信用できません。  もともと栃木県南の思川流域は良質で豊富な地下水に恵まれており、現に各市町と  もダムによる水道用水源を必要とする状況にはありません。
    別添図表ー15・16・17
   栃木市にいたっては、豊富な地下水が存在するにも関わらずダム事業に参加する  ために水道事業計画をわざわざ変更したとしか思えず、地下水を合理的に利用する  ことで将来の需要に十分対応できるはずです。したがってダムに新たな水源を求め  る必要はありません。 別添図表ー18
   鹿沼市は、 日量当たり19,000トン(約5万人分相当)の新規水源を要望してい  るとされていいますが、かねてより自身で多大な費用を投入して地下水源調査を実  地しており、その結果十分な地下水の存在を確認しています。
   一方市の水道事業計画は、人口動向に対応しない過剰な水需要予測に基づいてお  り、ダムによる新規の水源を必要とする状況にはありません。
     別添図表ー19・20・  21・22
   さらに栃木県自身が、既存のダム(川治ダムなど)に100億円以上の負担金を出   費しながら使う当てのない大量の未利用水をかかえていて、利水のための南摩ダム   建設はムダの累積になることは必至であります。
(6)南摩ダムの治水について
   思川下流の洪水基準地点・乙女の流域面積は760Kuありますが、南摩ダムの  流域面積はおおよそ12 Kuと、その1.6%に過ぎず、水害を防止する効果はほ  とんど期待できません。そもそも思川の洪水は下流の渡良瀬遊水地で全て調整され、  利根川本川には影響を及ぼさない計画になっており、栃木県が治水負担する理由は  ないはずです。 別添図表ー23・24
   また、最近ではどこのダムでも同様ですが、総工費約1850億円のうち利水部  分を除いた額に占める治水費用はごくわずかでしかなく、大半は流水の正常な機能  の維持といった訳の判らない目的のために使われることになっています。
(7)結論
   以上のように、思川開発事業は栃木県にとってのみならず、水余り状況、人口減  少社会の到来等考えれば首都圏全体にとっても不必要な事業といえます。
 
3 湯西川ダムの治水と栃木県の負担について
  湯西川ダム建設事業は首都圏の水需要が増大するとして1969年に構想されました。 しかし、水余り状況が顕在化したことから、1980年利水が減らされダムの事業目的に 治水が加えられ、なぜか2003年には 事業費が増大されて県民に多大な負担を強いて いる事業です。
 事業目的の変更、事業費の増大、行政の対応や経緯には不透明な点が多く。湯西川ダ ムの治水目的は屋上屋を重ねるように付加されたにすぎず、費用効果の厳密な検証が 必要です。
 
4 八ッ場ダムの治水と栃木県の負担
  八ッ場ダム建設事業は、利根川の上流群馬県吾妻川に建設され、同ダムにより栃木  県は水害防止上著しい利益を受けるとして9億円を負担することになっています。  しかし、利根川は栃木県域の外を通過する川であり「著しい利益」を受けるなどあ  り得ません。 別添図表ー25
   八ッ場ダム建設事業は、三事業の中で最も古い時代(50年前)から計画された事  業で、長期間にわたって苦難の生活を強いられていまなお補償交渉に翻弄されて移  転先のめどさえ立たない住民が多く存在するという事実があります。現地からは事業者の不誠実さに対する怒りの声が報告されています。こうした報告に接するにつけ、ムダなダムに巨額な負担を強いられる住民と、ムダなダムに故郷を追われる人々との間に絆が芽生え連携に進むことを願って陳述を終わります。
                                     以上。